1.出場選手の意向は反映されているのか

 まず最大トーナメントの組合わせは、クジなどではなく徳川御老公の一存で決められていたようです。鎬紅葉は自分の弟・昂昇と対戦する際に、「この対戦カードはドラマッチックなものでもなんでもない。私が徳川氏を説得して実現したものだ」と明言しています。

 興行という観点から考えるならば、「兄弟対決」などという観客受けする組合わせは、一回戦で行なうのにはもったいなさ過ぎると言えます。

 また、紅葉は刃牙との対戦で胃袋を破られ、昂昇は右腕をヘシ折られています。ここは、一回戦ではクイン,シャーマン,山本などといった噛ませ犬キャラと対戦させ、瞬殺することで「超肉体健在ッ。紐切り空手健在ッ」というところを観客にアピールし、その後二回戦以降で対決させるのが“トーナメントの盛上がり”という面では得策と考えられます。

 御老公はそれほど紅葉と親しいとも思われないのですが、それでも、御老公は紅葉の要求を受け入れました。おそらく紅葉が「昂昇が私以外の者に傷つけられることなど、絶対に許せないッ」などと涙を流しながら訴えたのでしょう。御老公は熱〜い涙に弱いのです。

 同様のことはまだあると思われます。愚地克巳とローランド・イスタスの対決で、愚地独歩はイスタスに対し「うん! そういう君だから克巳と闘らせたいんだよ」と言っています。この対戦もまた、「かつての宿敵の愛弟子同士、因縁の対決」ですから、やはり一回戦で行なうのはもったいなさ過ぎる対決です。

 また、克巳は神心会の秘密兵器,イスタスはいかに“神様”とはいえ地味なヨーロッパレスラー(なにせカール・ゴッチがモデル)ですから、どちらも観客にはなじみの薄い、したがって観客には強さが知られていない選手でしょう。やはりここは一回戦ではザコキャラと対戦させ、その強さを観客に充分アピールしてから、二回戦以降で対決させるのが得策でしょう。

 それでも、この因縁の対決は一回戦で実現しました。ということは、この対決は御老公のアイドルである愚地独歩が、無理に頼み込んで実現したものと考えられます。独歩は克巳に“自分と同じ試練”をくぐり抜けさせたかったのでしょう。

 こうなると、独歩VSリチャード・フィルスの対戦だって、独歩の意志である疑いが大です。「やってみたかったんだ一度は。こういう男と……こういう喧嘩をな」と独歩は言っています。これは、たまたま対戦できてラッキー……ということではなく、フィルスと対戦したくて独歩がわざわざ御老公に進言し、実現したものなのではないでしょうか。

 さらに、独歩の弟子である加藤とロベルト・ゲランの対戦も、やはり独歩の考えではないでしょうか。加藤はヤクザの用心棒だった男ですから、観客は加藤の強さや闘い振りを知りません。一方ゲランは伝説的な大プロボクサーで、喧嘩屋(喧嘩2000試合)で、体格はさほど大きくなく(ミドル級)、年齢的に全盛期を過ぎている。ということはつまり、加藤とは喧嘩屋同士噛み合った好勝負が期待でき、勝つチャンスは大いにあり、勝てば加藤の名は一気に上がります。加藤にとっては、実に有利なオイシイ対決と言えます。

 御老公と親しいといえば、猪狩完至もそうでしょう。わざわざ屋敷に招き「のうアントン」などと呼びかける仲です。猪狩はすでに引退していたのですから、最大トーナメントの出場は御老公の方から無理に頼み込んだものかも知れません。とすれば、マッチメイクの上でかなり猪狩の希望を受け入れているはずです。

 そう考えるならば、一回戦でロブ・ロビンソン,二回戦で金竜山というのは、猪狩にとって、実にオイシイ対決です。なにしろロビンソンはK-1,金竜山は大相撲のトップスターです。プロレス団体の社長(今は会長)である猪狩にとって、興行上のライバルである両格闘技の人気スターを自分の手で潰すことができるのです。

 オイシイ対決と言えば、本部以蔵も金竜山と闘う前に、「こーゆーのこそがオイシイんだよな!」などと言っています。本部は一応、徳川御老公に電話をして「徳川さんかね」「オドロいたろう、以蔵」などと話ができるほどですから、知らない間柄ではないようです。ということは、やはり本部が徳川氏に申し入れ、実現した対決でしょうか。

 たしかに、人気絶頂(当時)の金竜山を倒すことができれば、本部流柔術の名は一気に上がります。そういう意味ではオイシイのですが──しかしこうも考えられます。

 本部にとって本当に望ましい対決は、第一に本部自身が「今の貴様なら1分以内に殺せる」と豪語していた愚地独歩戦でしょう。第二には愛弟子の花田純一の敵討ちとなるマウント斗羽戦でしょうか。

 独歩が「この漢に壊された空手家は10人や20人ではきかんぞ」と言っているように、空手家殺しは本部の得意分野です。独歩が敗けるとは思えませんが、かなりの好勝負になると期待できます。一方相撲は、柔術とは源流を同じくする格闘技であり、柔術家にとっては闘いにくい相手です。

 しかし、独歩戦も斗羽戦も実現はしませんでした。2人が断ったとも考えられますが、むしろ徳川御老公が金竜山の強さを見抜き、本部を金竜山の噛ませ犬として当てがった、という可能性の方が高いでしょう。ということは、御老公は独歩や猪狩は好きだが……本部のことは嫌っているのだ、と思われます。

2.マイケルVS李戦の謎

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