11.範馬勇次郎はなぜ選手として呼ばれなかったのか
地上最強の男を決める最大トーナメントに、なぜ範馬勇次郎がエントリーされなかったのか。これはなかなか根源的な疑問です。
勇次郎はすでに地下闘技場の正選手なのですから、御老公さえその気になれば、勇次郎をトーナメントに参加させることぐらいできるはずです。
最も普通の解釈は、勇次郎は強すぎるがゆえに別格扱いなのだ、という考え方です。
勇次郎が参加したとすると、32人の参加選手のうちの1人、という扱いではアンバランスでしょう。勇次郎は特別シードとし、32人のトーナメントの勝ち残り者と勇次郎とで、最後の優勝者を争う……そのくらいでなければ逆にむしろ不公平です。
刃牙は、トーナメント当日の昼に学校で「このトーナメントに勝ちきり、一気にアンタの位置まで駆け登る!」と独白しています。これは不思議な言葉です。北極グマを素手で叩き殺し、世界中の戦場で傭兵として活躍し、たった一人で“一国の軍事力に匹敵する”とまで呼ばれる勇次郎の戦闘力です。刃牙がプロレスのチャンピオンや中国拳法の達人に勝ち抜いた程度で、どうして勇次郎に並んだなどと言えるでしょうか。
これは、単純に考えるべきでしょう。刃牙は徳川の御老公から、「この大会に優勝すれば、勇次郎とのスペシャルマッチを組んでやるぞい」と、言われていたのに違いありません! 優勝すれば父・勇次郎と闘える!! 「アンタの位置」とは再びサシで闘える立場、という意味なのです。刃牙は異常なまでに燃えたことでしょう。
さて、そうであったとすると、この最大トーナメントは実のところ「範馬勇次郎挑戦資格者決定トーナメント」です。ではなぜそのように公称しないのでしょうか。そうすれば、そして勇次郎にもそのように通知して納得してもらっておけば、あの天内を瞬殺した乱入事件なんか起きなかったのではないでしょうか。
これは、このように考えると理解できます。
範馬勇次郎は「地上最強の生物」です。
一方この最大トーナメントは、「地上最強の男」を決める大会です。
勇次郎は人間の男ですから、地上最強の生物である以上、当然地上最強の男でもある……と考えがちです。
ところが、そうとばかりは言えません。例えばプロボクシングの世界を考えてみましょう。
ボクシングの世界チャンピオンとは、少なくともその体重の階級においては、世界最強の男のはずですよね。
では今、日本人のライト級世界チャンピオンがいたとしますと、彼はライト級では世界最強の男です。世界で最強ということは、もちろん日本でも最強のはずです。
では、彼は同時に日本チャンピオンを兼任しているのかというと……そうではないようです。
日本チャンピオンが世界に挑戦する場合には、日本チャンピオンのタイトルは返上しなければならない──これがルールのようです。また世界チャンピオンのベルトを腰に巻いたまま、日本チャンピオンのタイトルに挑戦することも許されません。ですから、同じ階級で同じ日本の中に、日本チャンピオンと東洋太平洋チャンピオンと世界チャンピオンの
3人が併存していることは、何ら不思議なことではありません。勇次郎は「地上最強の生物」、すなわち地上の全生物チャンピオンです。一方、最大トーナメント優勝者の刃牙は「地上最強の男」、すなわち地上の全人類の男性チャンピオンです。
「地上最強の生物」を名乗る勇次郎は、名乗る時点で「地上最強の男」の座は返上しなければならないのでしょう。つまり勇次郎は、「地上最強の男」を決める最大トーナメントには出場の資格がないし、「地上最強の男」となった優勝者・刃牙に挑戦する権利もありません。
このように、世界チャンピオンはたとえ日本人であっても、日本チャンピオンのベルトを争うことがないように、「地上最強の生物」範馬勇次郎は、最大トーナメントに出場することはできなかったのです。
ところで、勇次郎は
16歳のころは「格闘技全生物無差別級チャンピオン」でした。「全生物」というのですから、ホウジロザメ,シャチ,マッコウクジラ,ダイオウイカなどの水中の生物よりも強いはずです。ところが現在(37,8歳)では、「地上最強の生物」と呼ばれています。明らかに、呼び名の範囲が後退しています。水中の生物に敗け、タイトルを奪われたのでしょうか?
いやいや、私が思うに、おそらく「氷上で」一度北極グマに敗けたのでしょう。北極グマは生涯のほとんどを海の上に張った氷の上で暮らします、すなわち「地上」ではありません。氷がわれて氷点下の海の中に投げ出される不運があったか何かのため、最初に闘った北極グマに一度だけ敗北した。その敗北の悔しさのために、執拗に北極グマと闘い、殺し続けているのではないでしょうか。
しかし、自分を敗北させた北極グマとはまだ再会することができず、「格闘技全生物無差別級チャンピオン」のタイトルは奪い返せないのでしょう。
もっとも、挑戦する前には「地上最強の生物」のタイトルは返上しなければなりませんが。するとズールあたりがこのタイトルの奪取に食指を動かすことでしょう。
以上のように、さまざまな謎の解明に挑戦してみました。刃牙と勇次郎の対決こそが真の「最大トーナメント決勝戦」と呼べそうです。はたしていつ見られるのでしょうか。そしてジャックはどうからむのか?