3.シャーマンは弱かったのか?

 出場選手中、最弱だったと言われるジャガッタ・シャーマンですが、私はシャーマンは案外強かったのでは……少なくとも対戦が予定されていた山本稔よりは強かったのではないか──と思っています。

 これは「興行」という立場から考えてのことです。まず、山本は格闘技ファンの間に名が通った、スター選手です。それもファンの間ではかなりの実力派とされています。一方、シャーマンは“ムエカッチュアー”というよほどのマニアでないと聞いたこともない格闘技の、全然無名の選手です。見た目もパッとせず、体格もあまり大きくはありません。出身地は多分ミャンマーでしょうが、これも観客にはなじみのない国です。これでカポエイラの逆立ち蹴りのような特殊な技でも持っていればまだ観客の興味を引きますが、素手のムエタイ、というのですから技も地味でしょう。

 さて、これほど観客から見た“格”に違いのある山本とシャーマンが闘い、山本が勝ったとして何が面白いのでしょうか? 何のために徳川御老公はこんなマッチメイクを組んだのか、そもそも何のためにシャーマンを呼んだのか、全然わからないではありませんか。それなら、まだ花田純一や、久隅公平を出場させた方がよかったではないですか。

 この試合の勝者が愚地独歩と闘う、ということを考えても、そんな無意味なマッチメイクを御老公がするとは思えません。

 ところが、シャーマンが山本を倒したとしたらどうか。これは一気にシャーマンの名は上がります。観客は昂奮します。隠れた強豪出現! ということで、二回戦のVS独歩戦への期待が大いに高まります。勇次郎にひねり潰されたシャーマンですから、勇次郎といい勝負をした独歩に勝てるはずはありませんが、それでもムエカッチュアーが、“素手の殴り合い蹴り合い”で長い歴史と伝統のある競技であるならば、ケンカ空手の独歩とそれなりの勝負になっていたかも知れません。

 考えてみれば、勇次郎は「ふさわしくない者には去ってもらい…」と言っているのであって、シャーマンが弱いとは言っていません。天内を一回戦から出場させるならば、それがデビュー戦です。デビュー戦の相手はかませ犬こそがふさわしい。かませ犬は、できるだけ名が通ったスター選手こそふさわしい。それは山本だ。シャーマンはかませ犬にふさわしくない。(山本の方が、美男子対決という観客の興味も引きますし。そこまでは勇次郎は考えなかったでしょうが……)

 このような理由で、勇次郎はシャーマンを潰したのではないでしょうか。

 そして、二回戦で天内を独歩と闘わせてみるつもりだったのです。勇次郎の行動は行き当たりばったりに見えますが、対戦表までちゃんと頭に入れて計算した行動をとっていたのです。

4.愚地独歩の描いた青写真とは

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