8.マウント斗羽の驚くべき陰謀
このように考えていきますと、心臓の弱っているマウント斗羽は、もともと最大トーナメントにおいてせいぜい一試合か二試合しかできる体調ではなかった…と言えます。だとすれば刃牙と真剣に闘う気持ちも、すでになかったのではないでしょうか。
斗羽が刃牙と闘う気持ちが失せたのはいつか。おそらく、一回戦のアンドレアス・リーガン戦で刃牙が快勝したときでしょう。リーガン戦では、リーガンのパンチを刃牙は素手ではじき、ローキックでぐらつかせて顔面への廻し蹴り。最後に顔面への胴廻し回転蹴りでフィニッシュ。まるで斗羽戦の再現のようです。自分に似た巨人タイプであり、自分よりもスケールがデカいリーガンが一蹴されたのを見て、斗羽は刃牙の成長を認め、すでに自分が勝つことは不可能と悟ったのではないでしょうか。
しかし、そうだとするならばワゴン車クラッシュのパフォーマンスの直後、「範馬刃牙への復讐のチャンス……感謝しますよ御老公──」と呟いたのはいったいどういうことなのでしょうか。直接闘って自分の手で倒すのでなければ、いったいどうやって復讐するつもりだったのでしょうか。
考えられるのは、斗羽は刃牙を倒せる何らかの必殺技を開発しており、それを刃牙の対戦相手に教えることによって自分の代わりに刃牙を倒してもらおう、という作戦です。
斗羽は、150キロのバク宙潰し(私はこの技を“マウンテン・スクワッシュ”と勝手に命名しております)によって刃牙をあと一歩のところまで追いつめました。結局、空中で回転を加速するという返し技によって刃牙に反撃され、敗北しました。もしこのバク宙潰しを改良することができたならば、刃牙に勝てるかもしれません。
バク宙潰しは後方宙返りの技ですが、一方刃牙は、前方宙返りの技を得意技としています。そうです。胴廻し回転蹴りです。斗羽,知念,勇次郎,リーガンなど、対巨漢戦には必ずといっていいほど出てくる刃牙の得意技です。刃牙が前方宙返り、対戦者が後方宙返りならば回転方向は一致します。と、すれば、もし刃牙が胴廻し回転蹴りに出て来たときに、一歩前に踏み込んでその体を受けとめ、その回転力を利用して後方宙返りに持っていったとしたらどうでしょうか!
刃牙は逆さまに抱えられることになり、回転の円周側に顔面がきます。その上後頭部に尻または膝からのしかかることになりますから、破壊力は3倍増です。(ただし腕脚を空中でロックすることは難しいですが)
このように、刃牙の得意技の胴廻し回転蹴りを誘っておき、その返し技としてバク宙潰しを使うならば、さすがの刃牙もそのまた返し技とはいかないでしょう。勝てるではありませんか!
斗羽は、最初はこの秘技を自分で使うつもりで練習していたのですが、VSリーガン戦での刃牙の胴廻し回転蹴りのスピードを見て、自分で行なうことはもはや無理と判断し、別の人間に秘技を伝えるつもりだったのです。
その男とは……神心会の秘密兵器・愚地克巳です!
なにしろ克巳は、元はサーカスの空中ブランコ乗り。バツグンの身体能力を持ち、後方宙返りなど得意中の得意です。体格も186.5cmの116kgと、斗羽よりは小さいにしろ申し分はありません。もちろん斗羽は、“人喰い愚地”の息子ならば必ず準々決勝に進んでくる、と読んでいました。(万が一、二回戦で花山に敗ければ、花山に伝えればよいのです)
しかし、克巳は自分の空手の技に誇りを持っていますから、プロレスラー風情に技のコーチなんぞ受けるいわれはありません。空手だけで刃牙ごときは粉砕できる自信もあります。
そこで、斗羽はまず二回戦で克巳と因縁のある烈海王を一蹴(「一分で終らせるつもり」だと本人が言っている)してみせ、さらに準々決勝で愚地克巳をもバク宙潰しで痛めつけておいて、その後わざと片八百長で敗けてしまいます。
克巳は怒ります。「なぜ勝ちを譲った!」と控え室まで怒鳴りこんできます。そこで、斗羽は準決勝で闘う刃牙が、あなどれない敵であることを諭し、「よかったら私の技を使ってもらえないか。今からここでコーチしよう」と持ちかけるつもりだったのです。
勝負には敗けているのですから、克巳も強気なことは言えません。また、後に烈を神心会のコーチに招いたように、克巳は敗北を認めれば後は素直に相手の技術を吸収しよう、と考える謙虚さを持った男のようです。そして、準決勝では斗羽がコーチした“胴廻し回転蹴り返しバク宙潰し”で見事克巳が勝利、斗羽の復讐は完。……
……とこのようなシナリオを斗羽は思い描いていたと思われます。現実には、斗羽は逆に1分で烈に倒され、計画はすべて瓦解してしまったわけですが……。
しかし、そうなると疑問がわきます。斗羽が、烈 → 克巳と闘う組合わせになったのは、たまたま夜叉猿Jrが加藤VSゲラン戦の時に檻を壊して逃げ出し、斗羽以外のリザーバー2名を潰し、加藤とゲランも潰してしまったからです。
本当にたまたまでしょうか…。また小坊主たちになぜ被害者が出ていないのでしょうか…。御老公はなぜ青くなって大騒ぎしないのでしょう…かえって喜んでいるような…。