9.夜叉猿の乱入は偶然か

 慎重派の斗羽は、最大トーナメントの開始以前にはまだ自分が直接刃牙と闘うか、代理を立てて闘わせるか、代理を立てるならばそれを誰にするのか、決めてはいなかったに違いありません。正選手ですと最初から組合わせが固定されてしまいます。リザーバーならば、フレキシブルに選択が可能です。

 とはいえ、普通ならばリザーバーの都合で好きなところから出場できるはずがありません。斗羽の計略は、夜叉猿Jrが加藤VSゲラン戦の時に逃げ出したからこそ成り立ったものです。これがたとえば花山VS稲城戦の時に逃げ出したならば、花山が夜叉猿Jrをボコボコにしてしまうでしょうから、斗羽の出番はありません。

 ということは、加藤VSゲラン戦の時に檻が破壊されて夜叉猿Jrが逃げ出したのは、偶然ではないのではないでしょうか? はっきり言えば、斗羽の要請を受けて、徳川御老公が部下に命じて故意にやらせたことなのではないでしょうか? バールでこじあけ、フックをかけてウィンチで引っ張るなどの方法をとったのでしょう。またリザーバー控え室を襲わせ、ゲラン側の通路に追い込んだのも、全て徳川御老公がやらせたことなのではないでしょうか?

 斗羽の「……感謝しますよ御老公──」という言葉は、そういう意味だったのです。そうでなければ(夜叉猿が自分で逃げたなら)、「感謝するよ夜叉猿」とでも言うべきところでしょう。

 また斗羽が、リザーバー控え室で「ど…どうしたんだこれは…栗木君、しっかりしたまえッ」などと言って驚いた顔をしていたのも、全ては芝居だったということです。

 夜叉猿Jrは、斗羽の出場枠を作るためのトーナメントの壊し役です。故意に対戦する選手を二人とも潰し、斗羽の出番を作るための御老公の手駒です。最初からリザーバーなどではありません。だからこそ御老公は、「役者がそろったッ」などと言って喜んでいたのです。

 そう考えなければ、勇次郎に対して「この大会はワシの悲願なんじゃ。壊さんでくれッ」などと土下座していたことと矛盾します。夜叉猿Jr乱入が予想もしないハプニングだったとすれば、まさに大会を壊されかねない大事件です。御老公は青くなって大騒ぎするはずでしょう。故意だからこそニコニコしていられたのです。

 あのマウント斗羽が、そんな汚い謀略をするものかどうか、自分のために栗木やゲランなどの罪のない他人を踏み付けにするものかどうか……と思われる方も多いでしょう。

 甘い! 斗羽は「花田の代わりをする」という自分の考えを押し通すために、相手の都合などいっさい無視し、テコンドーの金田を廻し蹴りでKOした男です。その花田を潰した後も救急車を呼ぶこともなく、残酷にも自転車ごと本部の道場に放り出しました。VS刃牙戦での猪狩の卑怯な攻撃に対しても、不快な顔はせずに含み笑いをして見ていました。人間力では斗羽は猪狩よりもむしろ上でしょう。その斗羽と御老公の狸同士がコンビを組んだならば、その程度の謀略はやるはずです。

 まっ、失敗したわけですが……。

 なお余談ながら、刃牙が猪狩を倒したジャンピング・バックドロップですが、あれは斗羽のバク宙潰しの応用技ではないでしょうか。刃牙の体重ではバク宙潰しを完全には真似られないまでも、自分流にアレンジして使ったわけです。このように研究を重ねたのは斗羽だけではありません。刃牙もまた斗羽の技を研究していたのですから、斗羽のシナリオ通りに事がはこんだとしても、それで刃牙を倒せたとは限らない、と言えるでしょう。

 

10.夜叉猿の正体とは

 前章の結論が正しいとすれば、到着が遅れていた4人目のリザーバーとは、夜叉猿Jrではなく、実はアレクサンダー・ガーレンだったのではないでしょうか。

 猿がリザーバー、などというふざけた話を、他の選手たちは認めるのでしょうか。もし夜叉猿Jrが選手として出場し、優勝することにでもなったとしたならば、選手たちはおとなしく納得したのでしょうか。

 そもそも、ガーレンはどういう立場で地下闘技場に来ていたのでしょうか。

 タクタロフのセコンドか? タクタロフはサンビストであり、格闘技の素人のガーレンがセコンドになるとは思えません。VS烈戦中も姿が見えませんでした。

 単なる観客としてか? ウラン鉱石掘りで忙しいガーレンが、極東の島国までわざわざ見物に来るとも思えません。

 やはり、ガーレンは“リザーバー”として御老公に呼ばれて来た、と考えるのが最も妥当と考えられるでしょう。

 しかし、夜叉猿については次のような仮説もあります。

 グラップラー刃牙にはさまざまな謎がありますが、「魔獣・夜叉猿とははたして何者か?」という謎はその中でも極めて大きな謎です。

 日本猿ではもとよりありません。

 マウンテン・ゴリラならばあのように頭毛が長くはありませんし、第一ゴリラは草食性です。

 特別に巨大化したオランウータンでしょうか。あのような巨大なオランウータンがあり得るのでしょうか。

 謎はまだあります。徳川御老公は、夜叉猿を最大トーナメントの“リザーバー”として地下闘技場に連れてきました。本気でしょうか? 結局は克巳にやられてしまいましたが、もし夜叉猿が脱走しなければ、そして負傷欠場者が多く出たならば、夜叉猿がリザーバーとしてトーナメントに出場していたのでしょうか? そして、もし夜叉猿が優勝していたならば、正式の優勝者になるのでしょうか? 10億円のベルトを与えて飛騨の山奥に帰してあげたのでしょうか?

 まあ、結局は刃牙かジャックかに倒されるでしょうから、夜叉猿の優勝はないかもしれませんが、優勝しなければよいというものではありません。

 猿が出場してよい、ということになりますと、ライオンだって、シロクマだって、アフリカゾウだって、シロサイだって出場してよいということになります。刃牙の優勝は真実のものとは認められず、ライオンやらシロクマやらが次々に刃牙のベルトを狙って挑戦者として名乗りを上げてくるでしょう。スカンクなんかが挑戦してきたら、刃牙はどう闘えばよいのでしょうか。観客はガスマスクを被って観戦するのでしょうか。

 だいたい、大会規約に明記されていようがいまいが、出場者が人間に限る、なんて常識以前の当たり前ではないですか! 「おッおい、聞いてないぜこんなの…おい…」ゲランの言う通りです。アホか徳川御老公は!!

 夜叉猿とははたして何者か? 出場者が人間に限るのは常識以前ではないか?

 この謎に対する解答は、一つは前述のように「実はリザーバーではなかった。真のリザーバーはガーレンだった」というものです。

 しかし、もし夜叉猿Jrが真にリザーバーだったとするならば……真相はたった一つしか考えられません。それは……そうです、夜叉猿は実は「 人間 」だったのです!

 オランダの古生物学者ラルフ・フォン・ケーニヒスバルトが、約50万年前に生息していた古代人類(猿人)に属する化石を中国南部で発見しました。身長は約2.52.7メートルにも達すると推測されています。この巨大猿人は「ギガントピテクス」と名付けられました。脳の大きさは現生人類の3分の1程度ですが、直立姿勢をとり、知能は高く石器を使用していたと考えられています。

 このギガントピテクスの生き残りこそ、夜叉猿の正体なのではないでしょうか!

 夜叉猿がギガントピテクスならば、原生人類ではないとはいえ「人間(人類)」には間違いありませんから、立派に出場資格があります。むしろ出場を拒めば、「人種差別(!)」以外の何ものでもなくなります。徳川御老公は、学者の鑑定書などを用意し、文句を言う者にはそのように反論する予定だったのでしょう。

 思うに、御老公は出場をグズっているアレクサンダー・ガーレン用の対戦相手として、夜叉猿Jrを用意したのではないでしょうか。「『人類最強の男』じゃと? 本当かの。そんならこいつと闘って証明してもらおうかの。しッしッしッしッしッ…」

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